Address
大阪府大阪市中央区淡路町3丁目1番9号  淡路町ダイビル6F

Work Hours
平日:9AM - 6PM

映像コーデック戦略:技術選定がビジネスに与える影響とは?

知らないと損する動画コーデック選定術:あなたの配信を変える技術とは?

  • 事業規模別のコーデック選定:スタートアップ、小規模サービス、大手プラットフォームなど、それぞれに適したコーデックの考え方を整理。

  • ビジネス目線で見るコーデック導入のメリット:通信コスト削減やユーザー体験向上など、技術以外の利点をわかりやすく解説。

  • H.264・H.265・VP9・AV1など主要コーデックの特徴を比較:圧縮効率、対応端末、ライセンスリスクなどのポイントを噛み砕いて説明。

  • 実務への落とし込み方:新サービス開発や既存配信の最適化に活かすポイントを提示。検討すべき項目や複数コーデック併用のヒントを紹介。

目次

  1. はじめに
  2. コーデック選びでよくある疑問
  3. ニーズ・事業別のコーデック選定ガイド                 
  4. ビジネス目線で考えるコーデック導入の背景と効果
  5. まとめ

はじめに

動画配信サービスを運営するうえで、意外と見落とされがちなのが「コーデック選定」です。たとえば、コーデック選びを誤ると次のような痛手を負う可能性があります。

  • 配信コストの増大:圧縮効率が低いコーデックを使うと、必要な帯域が増えてサーバーやCDNの費用がかさみます。
  • 視聴者の離脱:画質が悪かったり、バッファリングが頻発したりするとユーザーがストレスを感じ、競合サービスへ流れてしまうリスクが高まります。
  • 対応端末の制限:最新コーデックを採用しても、古い端末や特定ブラウザでは再生できない場合があり、取りこぼしが発生します。
  • 拡張性や新サービスの停滞:4KやVRなど新たな映像体験を提供したいときに、選んだコーデックが足かせになることもあります。

こうした問題はビジネス成長を大きく阻害しかねません。実は、動画コーデックは視聴体験配信コスト、そして対応デバイスの範囲を左右する“鍵”となる存在です。

では、コーデックとは具体的に何でしょうか?
コーデック(Codec)とは、映像や音声データを圧縮(エンコード)し、視聴側で復元(デコード)するための技術やアルゴリズムのことです。データを小さくすることでネット経由でスムーズに送受信できる一方、画質・音質・対応端末に影響が出ます。つまり、どのコーデックを使うかでビジネス面のメリット・デメリットが大きく変わるため、慎重に選ぶ必要があるのです。

本記事では、「なぜコーデック選定がここまで重要なのか」というビジネス的な視点から、事業規模やニーズに合わせたコーデック戦略のヒントをわかりやすく解説していきます。

コーデック選びでよくある疑問

コーデック選定について調べるユーザーは、主に次のような疑問を持っています。貴社も心当たりはないでしょうか?

  • H.264とH.265はどちらを使うべき?(性能差や対応状況の比較)
  • 最新のAV1コーデックは導入すべき?(圧縮効率や普及状況の疑問)
  • 画質と通信量のバランスが良いコーデックはどれ?
  • 自社の配信サービスに最適なコーデックの選び方は?
  • ライセンス費用や機器対応などの注意点は?

 

こうした疑問に答えるには、技術仕様の比較だけでなく「どんな目的で」「どの規模で」配信を行うのかという視点が重要です。次章から、事業規模やニーズに応じたコーデック選定のポイントを具体的に見ていきましょう。

ニーズ・事業規模別のコーデック選定ガイド

動画配信の最適解となるコーデックは、サービスの規模や目的によって異なります。ここではスタートアップ小規模配信サービス大手プラットフォームといった事業規模ごとに、適したコーデック選定のガイドラインを提案します。それぞれコストや技術要件、視聴環境を考慮した基準を示しますので、自社の状況に近いものを参考にしてください。

スタートアップの場合

サービス立ち上げ直後のスタートアップでは、開発リソースや予算が限られている中で確実に動作する安定した配信を実現することが最優先です。この段階では対応デバイスが最も広く普及しているH.264/AVCコーデックを選ぶのが無難と言えます。H.264は約20年の実績があり、現在ほぼ全ての機器・ブラウザが標準対応しているため再生互換性が非常に高いのが利点です。エンコードやプレイヤー実装のためのツールも豊富で、トラブルシューティングの情報も得やすく、初期導入のハードルが低いでしょう。またH.264は特許技術ですが、エンドユーザーに無料提供する動画配信であればライセンス料は恒久的に不要と定められており、小規模事業者の場合実質的に追加コスト無しで利用できるとの報告もあります。そのため広告モデルなど無料視聴前提のスタートアップであれば、H.264の利用コストを過度に心配する必要はありません。とはいえ将来的にユーザー数が拡大し有料サービス化する場合や、高画質・低ビットレート化のニーズが出てきた場合に備えて、次に述べる新世代コーデックへの知見も持っておくと良いでしょう。まずはH.264で確実にユーザーにリーチし、サービス軌道に乗った段階で徐々に他のコーデック導入を検討する戦略がおすすめです。

 

小規模配信サービスの場合

ある程度ユーザー規模が増えた小規模配信サービス(ニッチなVODサービスや中堅のライブ配信サイトなど)では、配信効率の向上画質差別化が次の課題となります。H.264のみで配信を続けると、フルHD以上の高画質時にサーバ帯域やCDNコストが増大していきます。そこで検討したいのが、H.264後継のH.265/HEVCやGoogleのVP9といった高圧縮効率コーデックの採用です。これらは同じ画質ならH.264より約半分程度のビットレートで配信できるため(※H.265はH.264の約2倍圧縮効率があるとされます)、ユーザーの通信量負担軽減や自社の配信コスト削減につながります。特に4K配信など高解像度コンテンツでは、H.264では現実的でないビットレートを要する場合でも、H.265やVP9なら実用的な帯域で届けられる可能性があります。ではH.265とVP9のどちらを選ぶべきでしょうか?それぞれメリット・デメリットがあります。H.265はH.264の後継規格として画質面で有利で、高効率な圧縮によりHD~4Kの配信をより少ない帯域で実現します。一方で複雑な特許ライセンス体系があり、複数の特許プールや企業が利用料を主張している状況から、商用利用に慎重な企業も少なくありません。自社サービスが有料課金モデルであれば、将来のライセンス費用計算や法的リスクも考慮する必要があります。

 

一方、VP9はGoogleが開発したオープンソースかつロイヤリティフリーのコーデックで、圧縮効率はH.265に匹敵します。既にYouTubeやFacebookではH.264の次にVP9が広く使われており、低帯域でも画質劣化を抑える目的で活用されています。VP9の利点はライセンス料を気にせず使える点と、Webブラウザ(ChromeやFirefoxなど)での対応が比較的進んでいる点です。デメリットはAppleのSafariブラウザでの再生サポートが限定的だったことですが(※Safariも近年一部でVP9対応が進みました)、依然としてiOSデバイスではH.265の方がハードウェア再生支援が効くケースがあります。そのため、自社の主要プラットフォームがWeb中心ならVP9を、モバイルアプリ中心ならH.265を優先するといった戦略も考えられます。可能であれば両方エンコードして端末に応じ出し分ける実装が理想ですが、小規模事業者にとって二重のエンコード・配信負荷は大きいので、自社ユーザーのデバイス傾向や通信環境を分析しつつ最適な一本を選定すると良いでしょう。いずれにせよ、小規模サービスの段階では引き続きH.264による互換性確保(レガシー端末向け)と、新コーデックによる効率化(対応端末向け)の両立がポイントになります。

 

 

 大手プラットフォームの場合

大規模な動画配信プラットフォーム(例:数百万以上のユーザーを抱えるVODサービスやSNS動画プラットフォーム)では、複数のコーデックを併用した最適化が一般的です。各ユーザーの端末や回線状況に合わせて最適なコーデックで動画を配信することで、全体として品質向上とコスト削減を両立します。具体的には、従来からのH.264も互換性維持のため残しつつ、先述のH.265やVP9を組み合わせ、さらに可能であれば次世代コーデックであるAV1のエンコードも導入する、といった形です。例えばYouTubeやNetflixでは、人気コンテンツについて積極的にAV1エンコードを行い、通信帯域の節約と画質向上を図っています。AV1は従来コーデックに比べ圧倒的に高い圧縮性能を持ち、同等の画質でH.264の約半分以下、H.265やVP9よりも約30%少ないデータ量で配信できるとの報告があります。これは利用者数が莫大なプラットフォームにとって、配信コストを劇的に下げると同時に、低速回線のユーザーにも高画質で届けられることを意味します。実際、NetflixはAV1配信の導入によって再生時の品質劣化(画質の自動低下)が38%減少し、視聴中のバッファリング発生も減少するといった顕著なユーザー体験向上効果を報告しています。大手ならではの十分なサーバーリソースと技術力があれば、AV1のような高負荷なエンコードにも対応できますし、デバイスメーカーと連携してデコーダー対応を促進することも可能です(※実際NetflixやYouTubeはTVやスマホのメーカーと協業しAV1対応を進めています)。

 

もっとも、新しいコーデックを導入する際には普及状況の見極めも欠かせません。いくら圧縮効率が良くても対応端末が少なければ意味がありませんし、国際標準規格になった技術でも広く浸透するまでには時間がかかります。大手プラットフォームでは常に最新技術を追求しつつも、実際のユーザー環境に合わせて数世代のコーデックを並行運用するケースがほとんどです。例えばある大手サービスでは、PC・Android向けにはVP9/AV1、iOS・AppleTV向けにはH.265、旧来端末向けにはH.264といった具合に使い分けています。規模が大きくなるほど“一つのコーデックに統一”は難しくなり、マルチコーデック配信による最適化がビジネス上有利になると言えるでしょう。また、大手になると次世代のH.266/VVC(H.265のさらに次の規格)などへの取り組みも視野に入ります。VVCはH.265比でさらに約50%の圧縮効率向上を目指した新コーデックで、今後数年内に実用化が期待されています。こうした最新動向も踏まえ、将来を見据えたコーデック戦略を立てられるのも大手ならではの利点です。

 

 

ビジネス目線で考えるコーデック導入の背景と効果

技術論だけでなく、ビジネス課題の解決手段としてコーデックをどう活用できるかも押さえておきましょう。ここでは、企業がコーデックを選定・導入する背景にある主な課題と、その導入によって得られる効果を整理します。

  • 通信コスト・配信負荷の削減:高性能なコーデックを使う最大の動機は、動画配信にかかる帯域負荷やCDNコストを削減できることです。圧縮効率の高いコーデックを使えば、同じ動画を配信するのに必要なデータ量(ビットレート)を大幅に減らせます。例えば従来H.264で5Mbps必要だった映像が、新コーデックなら2~3Mbpsで同品質に抑えられることもあります。ユーザー側の通信量も減るため長時間視聴しやすくなり、結果として視聴継続時間の増加やエンゲージメント向上にもつながります。通信インフラへの負荷低減は、配信サーバーのスケーラビリティ確保やピーク時の安定性向上にも寄与します。

  • ユーザー体験(QoE)の向上:コーデック最適化は視聴者の体験品質も向上させます。データ量を抑えられれば再生開始の待ち時間短縮バッファリング発生の減少が期待できます。特にモバイル回線や混雑したネットワーク環境下では、効率の良いコーデックがカクつきや画質低下を防ぎ、滑らかな再生を実現します。実際の事例として、国内大手の「DMM TV」はAV1コーデックを導入することで「同画質を保ったまま従来の40~70%程度の通信量でコンテンツを提供できる」とし、回線混雑時の安定視聴や操作レスポンスの改善など多面的な効果を得ています。こうしたユーザー満足度の向上は、サービスの評価や利用継続率アップにも直結するため、ビジネス上大きなメリットとなります。

  • 新サービス・高画質コンテンツへの対応:より高度なコーデックを採用することで、これまで難しかった高画質サービスを提供できるようになるケースもあります。たとえば4K/8K解像度の動画配信やVR映像配信などは、従来型コーデックでは帯域面で非現実的でしたが、H.265やAV1なら実用レベルまで現実味を帯びてきます。実際、NetflixではAV1対応により4K映像の再生時間が約5%増加(ユーザーが4K画質で視聴できた割合が増えた)とのデータもあります。これは高画質ストリーミングがより多くのユーザーに届くようになったことを示しており、新たな付加価値サービスの提供やプレミアムプランの創出につながります。

  • マルチプラットフォーム戦略:ビジネス展開上、対応デバイスやプラットフォームを拡大していく中でコーデック戦略は重要な検討事項です。PCブラウザ、スマホアプリ、スマートTV、セットトップボックスなどターゲット環境が増えると、各環境でサポートされるコーデックが異なるためです。先述のように大規模サービスでは複数コーデックを使い分けていますが、これは裏を返せばコーデックを柔軟に切り替えられるシステム設計が求められるということでもあります。エンコーダーソフトやハードウェアの準備、ストレージ確保、配信経路の最適化(例えばブラウザにはVP9を優先、アプリにはH.265を優先する等)、そしてプレイヤー側でのデコード検知と切り替え——こうした実装上の工夫が必要です。ただ、一度仕組みを構築してしまえばユーザーごとに最適な体験を自動提供できるため、長期的には「対応デバイスの拡大=市場拡大」に直結します。

このように、コーデックの選定・導入は単なる技術選択ではなくビジネス上の投資判断でもあります。自社の課題(コスト削減か品質向上か、新サービス対応か etc.)を明確にした上で、それにフィットするコーデックを導入することが大切です。例えば「まずは通信コストを下げたい」という課題には既存インフラを大きく変えず導入できるVP9が適するかもしれませんし、「最新デバイス向けに最高品質を提供したい」場合はAV1にチャレンジする価値があるでしょう。あるいは「特定の業界標準に合わせる必要がある」なら既存のH.264/H.265を使い続けるのが現実的かもしれません。自社のビジネス状況と照らし合わせ、投資対効果を意識したコーデック活用を検討しましょう。

まとめ

コーデック選定は技術的な性能比較だけで決められるものではなく、事業規模やユーザー環境、そして解決したいビジネス課題に応じた総合判断が求められます。スタートアップにはスタートアップの、巨大プラットフォームにはプラットフォームなりの最適解があり、本記事ではその指針となる考え方を紹介しました。当社では最新コーデックの動向調査から実際の配信システム実装まで、豊富な実績を持つエンジニアチームがサポートいたします。事業規模やニーズに合わせた最適なコーデック選定・導入プランをご提案し、サービス品質とコストの両方を改善するお手伝いをいたします。

お気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。

 

監修者:竹内 望

大学・大学院でAIによる画像処理の研究やレーザー機器制御による物理メモリの研究を行った後、外資系大手ITコンサルティング会社に入社。現在はAIエンジニアとして、業界を問わず業務効率化のためのRPAシステムやAIによる業務代替システムの開発と導入を行っています。