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生成AIと著作権を巡る最新事例10選:ビジネスに潜むリスクと法的視点

本記事の概要
生成AI(Generative AI)の急速な普及は、ビジネスの現場に大きな変化をもたらしています。文章作成や画像・音楽の生成、プログラミング補助まで、多様な業務効率化が期待される一方で、著作権に関する新たなリスクも顕在化しています。実際、生成AIを巡る著作権侵害の訴訟や係争が世界的に増加しており、ニューヨーク・タイムズによるOpenAIへの巨額訴訟や著名作家グループによる集団訴訟などが相次いで報じられています 。本記事では、国内外の最新事例10件を深掘りし、それぞれのケースで何が問題となったのか、法律専門家の見解や判例を交えながら詳しく解説します。法務担当者やクリエイターの方にも分かりやすく、それでいて専門的な知見にも裏付けられた権威ある情報をお届けします。

目次

  1. NYタイムズ vs OpenAI – 記事データ無断学習に対する巨額訴訟
  2. 著名作家グループ vs OpenAI – 小説等の無断学習を巡る集団訴訟
  3. Getty Images vs Stability AI – 写真素材の無許可利用を巡る争い
  4. アーティスト集団 vs 画像生成AI企業 – 作風模倣は著作権侵害か問う訴訟
  5. 音楽レーベル vs 音楽生成AI企業 – 楽曲データ無断利用に対する初の訴訟
  6. ダウ・ジョーンズ vs Perplexity AI – ニュース記事要約サービスへの著作権訴訟
  7. 円谷プロ(ウルトラマン) vs 画像生成AI – キャラクター画像生成への差止め請求
  8. 中国・AI画像著作権判例(北京) – AI生成画像に初めて著作権を認めた判決
  9. 米国・Thaler事件 – AIのみが創作した作品の著作権は認められない判決
  10. GitHub Copilot集団訴訟 – プログラムコードの無断学習とOSSライセンス問題

各事例の詳細解説


事例1: NYタイムズ vs OpenAI – 記事データ無断学習に対する巨額訴訟

事例概要:
2023年12月、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、ChatGPTを提供するOpenAIおよびパートナー企業のマイクロソフトに対し、数十億ドル規模の損害賠償を求める著作権侵害訴訟を提起したことが報じられています 。NYT側の主張は、同社の記事が許可なくChatGPTの学習データに使用され、さらにChatGPTがその記事内容を要約・再現する形で提供している点が問題だというものです。

著作権上の問題点:
このケースでは、ニュース記事という既存の著作物を無許可でAIの訓練に使う行為と、AIが記事内容を出力(要約含む)する行為が著作権侵害に当たるかどうかが争点です。NYTは「自社コンテンツを無断流用された」と主張しており、AI側は膨大な公開情報の一部として利用したに過ぎないとの立場を取るとみられます。特に、AIによる要約であっても記事の本質的な表現を再現していれば複製権侵害になり得る点が問題視されています。このような無断学習・生成行為が米国著作権法上フェアユース(公正利用)と認められるか、それとも権利者の許諾が必要な行為と判断されるか、法的に明確でない部分があります。現状、米国の裁判所はAIが生成したコンテンツ自体の侵害主張には懐疑的ですが、学習段階での大量無断利用という数十億ドル規模の問題についてはこれから司法の判断が下されるとみられます (How copyright law could threaten the AI industry in 2024 | Reuters)。

法的見解:
専門家はこの訴訟が「生成AIの学習データ利用」に関する重要な先例になる可能性を指摘しています 。米国では日本のような学習目的の明確な法的許諾規定がなく(フェアユース規定で個別判断)、本件ではAIによる無断学習がフェアユースと認められるかが焦点です。一方NYT側は、莫大な投資をして作成した記事コンテンツをAI企業にただ乗りされたと主張しており、「報道機関の貴重なコンテンツへのただ乗り行為だ」と強く批判しています (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。この主張は、権利者の許諾なく大量のテキストを取り込み営利利用するAI企業に対し、なんらかの補償や規制が必要だという世論を反映したものと言えます。裁判の行方次第では、生成AI開発企業に対し訓練データの開示義務や使用許諾料の支払いなど新たな法的負担が課される可能性も指摘されています。

ビジネス上の対策ポイント:

  • 自社コンテンツの保護:
    新聞社やウェブメディアなどコンテンツ所有企業は、自社サイトの利用規約でクローリングや機械学習利用を禁止する条項を設けたり、技術的なアクセス制限を導入するなどの方法を検討することが推奨されます。
  • AI利用側の注意:
    生成AIを業務利用する企業も、AIが出力した文章が特定のニュース記事等をそのまま引用・要約しすぎていないか確認が推奨されます。他社コンテンツを丸写しするような出力を公表すると、意図せず著作権侵害に加担するリスクがあるためです。
  • 契約と交渉:
    AI開発企業は大手コンテンツ提供者との間でデータ利用契約を結ぶことを検討することが推奨されます。例えばニュース記事データベースをライセンス提供してもらう代わりに利用料を支払うなど、権利者との協調的な関係構築がリスク低減につながります。

事例2: 著名作家グループ vs OpenAI – 小説等の無断学習を巡る集団訴訟

事例概要:
ベストセラー作家を含む米国の著名作家グループ(ジョージ・R・R・マーティン氏〔「ゲーム・オブ・スローンズ」原作者〕やジョン・グリシャム氏、サラ・シルバーマン氏など複数)が、2023年9月にOpenAIに対する集団訴訟を提起しました。彼らは自らの小説や文章が許可なくChatGPTの学習データに使われ、さらにAIが自分たちの作風をまねた文章を生成していると主張しています 。この訴訟では、創作者の権利保護とAI技術発展のバランスが問われており、AIが生み出す文章が元の作品の表現上の本質を模倣しているとして、適切な補償を求める内容となっています。

著作権上の問題点:
作家たちの主張する問題は、大きく二点あります。(1) 著作物の無断学習利用:自分たちの小説本文そのものが無断で取り込まれたこと。(これは事例1のNYTと同様、訓練データ利用の問題です) (2) 作風の模倣:AIが生成した物語が、特定作家の文体やストーリー展開の特徴を濃厚に模倣している場合、それが著作権侵害と言えるかどうか。後者は「スタイル侵害」とも呼べる新しい論点で、従来の著作権法では必ずしも明確ではありません。著作権はアイデアではなく表現を保護しますが、AIはオリジナルの文章を直接引用せずとも、作家の創作上の「表現の風味」を再現しうるため、これが保護される表現の一部なのか単なるアイデアなのか判断が難しいところです。原告側は、AIが自分たちの作品世界や文体の「本質」を真似て新たなコンテンツを生み出していると主張し、これも広義の複製・翻案に当たると訴えています 。

法的見解:
この集団訴訟は、クリエイターの権利擁護団体(Authors Guild)なども支援しており、「AI時代における著作者の正当な利益を守る闘い」と位置付けられています。法律の専門家からは、「AIによるスタイル模倣を著作権侵害と認めるハードルは高い」との見方もあります。なぜなら、著作権法は事実やアイデアそのもの、作風そのものは保護しないという原則があるためです。しかし大量の無断利用という事実は裁判官の心証に影響を与える可能性があり、著名作家の作品がなければChatGPTの高度な文章生成は成し得なかったという訴えは社会的にも共感を呼んでいます (How copyright law could threaten the AI industry in 2024 | Reuters) (How copyright law could threaten the AI industry in 2024 | Reuters)。実際、本件を含め複数の作家・クリエイター集団がAI企業に次々と法的措置を取っており (How copyright law could threaten the AI industry in 2024 | Reuters)、2024年は米国の裁判所がこれらの集団訴訟を通じてAI学習の適法範囲について判断を示す年になると予想されています (How copyright law could threaten the AI industry in 2024 | Reuters)。訴訟の結果次第では、AI企業に対してトレーニングデータの提供元への報酬支払いやオプトアウト(学習除外)の仕組み整備など、新たなルール形成につながる可能性があります。

ビジネス上の対策ポイント:

  • クリエイター側の対応:
    作家やクリエイターは、自身の作品が無断学習に使われないよう出版社や業界団体と協力し、データ提供の条件設定(例:著作権管理団体を通じた許諾制)を推進することが考えられます。また、自らの作風がAIに模倣されていないか定期的にチェックし、必要に応じてAI企業にデータ削除や利用停止を求めることも検討が推奨されます。
  • AI開発企業側の配慮:
    生成AIを開発・提供する企業は、訓練データの選定において公Domainの素材やライセンス許諾済みデータを優先的に使用する、自主的に学習対象から特定著作者の作品を除外できるオプトアウト手段を提供する、といった措置がリスク軽減につながります。
  • 契約・ライセンスモデルの模索:
    長期的には、出版社・作家とAI企業の間でデータ利用のライセンス契約を結び、使用料を支払うビジネスモデル構築も考えられます。AIが生み出す価値の一部を原著作者に還元する仕組みを作ることで、法的紛争を避けつつWIN-WINの関係を築ける可能性があります。

事例3: Getty Images vs Stability AI – 写真素材の無許可利用を巡る争い

事例概要:
大手ストックフォト企業のGetty Images社は、画像生成AI「Stable Diffusion」を開発するStability AI社に対し、同社が保有する大量の写真画像を無断で学習データに使用したとして訴訟を提起しました 。この訴訟は2023年に英米で提起され、大手画像ライブラリ企業が生成AI企業を相手取った初の本格的法的チャレンジとして注目されています。Getty側は、商用目的で提供されている自社の画像データベースの価値がAIによる無断利用で毀損されたと主張し、著作権侵害による損害賠償に加えて、違法利用の差止めを求めています 。実際、Stable Diffusionが生成した画像の一部にはGettyのウォーターマーク(透かし)に酷似した模様が残るものも確認されており、無断利用の痕跡だと指摘されています。

著作権上の問題点:
このケースでは、営利企業の保有する有償画像データをAIが無断で学習に用いたことが核心的問題です。個人が趣味でAIを学習させたというより、AI企業が収益目的で他社の資産(画像コレクション)を利用した構図であるため、権利者の経済的損失が明確に主張されています。著作権法上は、画像そのものをコピーして訓練データセットに蓄積する行為や、それによって類似画像を生成する行為が複製権や翻案権の侵害に当たるかどうかが問われます。特にGettyのようなストックフォトは、1枚ごとにライセンス収入が発生するものですから、無断学習によってライセンス収入機会を奪われたという損害論も展開されています。また、本件はデータセットの商業的価値とAIの学習利用との関係が主要な争点とされています 。すなわち、企業が蓄積した高品質データという資産をAIが無償で利用できてよいのか、という政策的な議論にもつながっています。

法的見解:
Getty Images訴訟は、生成AIのデータ利用に関する権利範囲を巡る代表的事件として法曹界でも注目されています。英国ではこの種の問題にフェアディーリング規定(日本の私的複製や米国のフェアユースに類似の概念)がどう適用されるか、米国ではフェアユースか否かなどが論点です。現時点で判決は出ていませんが、AI企業側は「学習は著作物を複製して提供するものではなく分析行為である」と反論し、一種のフェアユースであると主張すると考えられます。一方でGetty側は、「学習データへの無断投入」は単なる分析ではなく、画像を丸ごとコピーして内部利用する行為であり侵害だと強調しています。また、Gettyは「クリエイターへの正当な対価支払いなくAIモデルが成立するのは不公平」とも訴えており、この事件は単なる法解釈だけでなく著作権ビジネスのあり方にも一石を投じるものです 。もしGetty側が勝訴すれば、他の画像サイトや素材集も追随してAI企業に対する集団訴訟が起きる可能性が高く、生成AI業界にとってはビジネスモデルの見直しを迫られることになるでしょう。逆にAI企業側が勝てば、データセット無断利用の合法性が一定程度確認されるため、以後の訴訟抑止につながります。このように本件は業界の趨勢を左右しかねない重要ケースです。

ビジネス上の対策ポイント:

  • データ提供企業の権利保護:
    写真・イラスト素材を扱う企業は、自社コンテンツがAI学習に利用されないよう技術的措置(透かし埋込強化やアクセス遮断)や法的通知(無断利用停止を求める警告書送付)を行うことなどを検討することが推奨されます。また、仮に無断利用が判明した場合に備えてログの保存や利用状況の監視を実施し、権利侵害の立証に備えることも有効です。
  • AI開発企業のリスク管理:
    画像生成AIを提供する企業は、訓練データについて権利クリアランス(権利処理)を真剣に検討することが推奨されます。具体的には、公開されているからといって安易に商用データを収集するのではなく、Public Domainやクリエイティブ・コモンズなど許諾済み素材を中心に使う、あるいはストックフォト企業と契約を結んでデータ供給を受けるなど、リスクの低い学習データ構成を取ることが望ましいでしょう。
  • 業界標準の模索:
    長期的には、AI開発者とコンテンツホルダーとの間でデータ利用に関する業界標準ガイドラインを策定することが望ましいでしょう。例えば「学習に用いたデータセットの出所を開示する」「著作権者から苦情が来たら速やかに対応する」等、最低限のルールを共有することで、無用な紛争を減らすことができます。

事例4: アーティスト集団 vs 画像生成AI企業 – 作風模倣は著作権侵害か問う訴訟

事例概要:
デジタルアーティストやイラストレーターのグループが、Stable DiffusionやMidjourneyなど画像生成AIの提供企業を相手取り、集団訴訟(クラスアクション)を起こしました 。原告には人気コミックアーティストのサラ・アンダーセン氏(漫画『サラズ・スクリブルズ』作者)などが含まれており、彼らは「生成AIが自分たちの作品のスタイルや特徴を無断で学習・模倣し、酷似した画像を生成している」と主張しています 。この訴訟は2023年に米カリフォルニアで提起され、画像の「作風」の無断利用という新たな著作権論点を法廷に持ち込んだケースとして注目を集めました 。

著作権上の問題点:
ポイントは、既存アート作品の「スタイル模倣」が著作権侵害に該当し得るかという点です。AIが既存の絵画そのものをコピーして出力したのであれば明らかに侵害でしょう。しかしAIは往々にして、訓練データから学習した複数の作品の要素を組み合わせた新しい画像を生み出します。例えば「◯◯というアーティスト風のドラゴンの絵」と指示すれば、そのアーティストの筆致や色彩感を真似たドラゴン画が生成されるかもしれません。この場合、出来上がった画像が特定の既存作品と酷似していれば複製権侵害の可能性がありますが、そうでなく単に雰囲気が似ているだけなら法的には「アイデア段階の模倣」に留まり、著作権法は及ばないという判断もありえます。従来の判例でも「作風(スタイル)」それ自体は保護されないと解されてきました。しかし、本件のアーティストらは、AIが高度に自分たちの創作上の特徴を取り込み再現している以上、それは単なるアイデア盗用ではなく「表現上の本質的特徴の無断流用」だと位置付けています。さらに、AIモデルに自分たちの作品が勝手に利用されたこと自体(データ無断使用)も問題視しています。要するに、「自分の絵柄」という財産的価値を勝手に学習・模倣され、収益化されているという不満です。著作権の枠組みに収まらない部分もありますが、アーティストの人格的・経済的権益の侵害として広く議論が起きています。

法的見解:
専門家の中でも意見が分かれる論点ですが、「スタイルも表現の一部であり、大量無断模倣は著作権(または著作隣接権)的に保護されるべき」という革新的見解と、「スタイルは著作権保護の対象外であり、法改正なくして侵害とするのは難しい」という保守的見解があります。現行法上は後者寄りの見解が強く、被告AI企業側も「特定の作品を再現しているわけではない」と主張して争っています。一方でカリフォルニアの裁判所は2023年10月、本件原告らの一部請求について審理続行を認める判断を下し、少なくとも門前払い(棄却)とはしませんでした (Judge Throws Out Majority of Claims in GitHub Copilot Lawsuit)。これは原告側にとってひとつの勝利であり、「著作権法の解釈をAI時代に合わせて拡張すべきか」を司法が検討する余地が生まれたとも言えます。法律実務家からは、「最終的に立法措置が必要になる可能性」が指摘されています。つまりスタイル模倣に対する新たな権利(例えば視覚芸術家のためのパブリシティ権のようなもの)を創設しないと十分救済できないのではないか、という議論です。ただしそのような法改正には時間を要するため、当面この訴訟の行方に注視が集まります。結果次第で、生成AIが特定のアーティスト名での画像生成機能を制限せざるを得なくなる可能性もあります(実際、Midjourneyでは一時「アーティスト名をプロンプトに使えなくする」措置の検討が報じられました )。

ビジネス上の対策ポイント:

  • クリエイターの自衛策:
    デジタルアーティストは、自分の作品が無断でAI学習に使われにくくするために低解像度画像のみ公開したり、大胆なウォーターマークや署名を入れるなどの対策を検討することが推奨されます。実際、ある中国のケースではAIが画像についていた署名を除去して利用したため訴訟になりました。そうした不正利用の発見には、ファンやコミュニティと連携してネット上の類似画像をモニタリングすることも有効でしょう。
  • AIサービス提供者の方針:
    画像生成AIを提供する企業は、ユーザーが特定の作家名や作品名をプロンプトに入力した際にフィルタリングや警告を行う仕組みを導入することが推奨されます。著名キャラクター名やアーティスト名での生成は禁止するガイドラインを設けているサービスもあります。また、訓練データセットから権利者の申し出に応じて画像を削除できるようにするなど、権利者対応の窓口を設置することも重要です。
  • ユーザー企業の注意点:
    生成AIで得た画像を商用利用する企業も、自社が使おうとする画像が既存の作品やキャラクターに酷似していないかチェックが推奨されます。一見オリジナルに見えても、著名なキャラクターの姿やアートスタイルを模倣していると、後から著作権者からクレームを受けるリスクがあります。少しでも「見覚えがある」デザイン要素が含まれる場合は、利用を避けるか、デザインを変更した上で使用することなどを検討するとよいでしょう。

事例5: 音楽レーベル vs 音楽生成AI企業 – 楽曲データ無断利用に対する初の訴訟

事例概要:
2024年6月、ソニー・ミュージック(Sony Music)、ユニバーサル・ミュージック(UMG)、ワーナーミュージックの世界大手レコード会社3社が共同で、米国のAI企業2社(Suno社およびUdio社)を相手取り音楽生成AIに関する初の訴訟を起こしたと報じられています (音楽生成AI相手に初訴訟、ソニーなど大手3社 著作権侵害訴え | ロイター)。レコード各社は、被告企業が自社の楽曲音源を無断コピーしてAIに学習させ、人間のアーティストの作品と競合し得る楽曲を生成させたと主張しています (音楽生成AI相手に初訴訟、ソニーなど大手3社 著作権侵害訴え | ロイター)。訴状では、無断使用された楽曲1曲につき最大15万ドルの法定損害賠償を求めており、音楽業界による生成AIへの強い危機感が示されています (音楽生成AI相手に初訴訟、ソニーなど大手3社 著作権侵害訴え | ロイター)。この訴訟は、音楽分野で初めてAI企業に対する大規模な著作権訴訟であり、今後の音楽AI開発に大きな影響を与えるとみられます (音楽生成AI相手に初訴訟、ソニーなど大手3社 著作権侵害訴え | ロイター)。

著作権上の問題点:
中心的な問題は、楽曲(音源データ)の無断学習利用です。音楽はメロディーや歌詞に著作権が認められ、音源そのものにも録音物として著作隣接権があります。AIが楽曲データを解析・学習する行為は、その過程で音源を複製するため、著作権者(作曲家・作詞家)および原盤権者(レコード会社など)の複製権を侵害する可能性があると主張されています。特に本件では営利企業が他社のヒット曲を無断利用しているため、フェアユース(米国)などの主張は通りにくいと考えられます。また、AIが生成した楽曲が特定の既存曲に似ている場合、従来の盗作(著作権侵害)訴訟と同様の問題も生じます。さらに最近は、AIに有名アーティストの声質や歌唱スタイルを真似させた偽楽曲がインターネット上に投稿され話題になるケースも増えています (生成AIの著作権侵害の事例7選!企業のリスクと具体的対策を解説 – 株式会社アドカル)。本訴訟はまず音源データの無断使用に焦点を当てていますが、広く音楽業界におけるAI活用のルール作りに発展する可能性があります。

法的見解:
レコード会社側の訴えは非常に直接的で、メディアでは「AI企業が我々の曲を無断使用した」との表現で集約されると報じられています (音楽生成AI相手に初訴訟、ソニーなど大手3社 著作権侵害訴え | ロイター)。法律上も分かりやすい侵害主張であり、勝訴の見通しは高いとも言われます。音楽業界では、著作権者団体(JASRACのような団体)やレコード協会がこの動きを支持しており、「無許諾のAI学習は音楽文化への脅威」との声明を出す動きもあります。被告AI企業側は現時点でコメントを控えていますが、仮に争うならば「音楽の分析は著作物の享受ではなくデータ解析である」という主張や、「生成された曲は既存曲と別物である」といった反論が考えられます。しかし人間の曲を凌駕・代替する目的でAIに学習させたという訴状の記載 (音楽生成AI相手に初訴訟、ソニーなど大手3社 著作権侵害訴え | ロイター)からも、被告にとって弁解は容易ではありません。法律専門家は「本件は和解になる可能性が高い」と予想しており、AI企業が一定の賠償金や今後の楽曲ライセンス契約を提示し、レコード会社側と合意に至るシナリオも考えられます。いずれにせよ、音楽生成AIは著作権者の許諾なしに開発しにくい時代に入ったと評価できます。また、この訴訟を機に、既存の音楽著作物をAIが利用する際の包括ライセンス制度など、新たなビジネスモデルの模索も始まるかもしれません。

ビジネス上の対策ポイント:

  • 音楽データの扱いに注意:
    企業が音楽生成AIを開発・利用する際は、必ず学習に用いる楽曲データの権利処理を検討することが推奨されます。具体的には、著作権が切れた古典音楽やパブリックドメイン音源を使う、または音源提供元(レコード会社等)と契約を結んでデータを入手するなどの手段が考えられます。許可なく市販曲を学習させるのはリスクが高いと認識することが望ましいでしょう。
  • AI生成楽曲のチェック:
    AIが作った曲を利用・配信する場合、その曲が特定のヒット曲と酷似していないか事前に音楽専門家の意見を仰ぐなどチェックを行うことが推奨されます。メロディラインが似ている場合は著作権侵害を指摘される恐れがありますし、有名アーティストの声を合成した場合はレコード会社や本人から削除要請を受ける可能性があります (生成AIの著作権侵害の事例7選!企業のリスクと具体的対策を解説 – 株式会社アドカル)。
  • 権利者との協業:
    音楽業界は権利管理が厳格な分野です。生成AIをビジネス活用するなら、むしろレコード会社や音楽出版社と連携し、AIを使ったリミックスコンテストやボーカル分離技術の提供など、権利者公認のプロジェクトを企画する方向を検討するのも有用でしょう。権利者にメリットがある形でAIを使うことが、法的リスクを下げるだけでなく新たな価値創造にもつながります。

事例6: ダウ・ジョーンズ vs Perplexity AI – ニュース記事要約サービスへの著作権訴訟

事例概要:
2024年10月、米大手経済メディア企業のダウ・ジョーンズ社(ウォールストリート・ジャーナル紙の発行元)と、同グループのニューヨーク・ポスト紙は、AI搭載の検索エンジンを提供する新興企業Perplexity AIに対し、著作権侵害でニューヨーク連邦地裁に提訴しました (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。Perplexityはユーザーからの質問に対し、ウェブ上の情報を収集・要約して回答するサービスですが、報道機関の記事を無断で大量にコピー・要約提供していると指摘されています (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。原告は、Perplexityが「報道機関の貴重なコンテンツにただ乗りしている」と批判し、回答生成に記事を利用する行為の禁止や、無断使用された記事データベースの破棄、さらに1件あたり最大15万ドルの損害賠償を求めていると報じられています (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター) (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。なお、NYタイムズも同様の懸念から2024年10月上旬にPerplexity宛てに記事の無断使用中止を求める書簡を送付したとされています (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。

著作権上の問題点:
このケースは、AIを用いた検索・要約サービスがニュース記事など著作物をどのように利用しているかが争点です。具体的には、(1) 記事本文を無断で取得・保存していること(データベース化)が複製権侵害に当たる可能性、(2) 記事の重要な部分を抽出・要約して提供する行為が翻案権や公衆送信権(米国では頒布や二次的著作物作成権など)に抵触する可能性、の二点が問題となります。Perplexity側はウェブ上の公開情報を収集しているに過ぎず、自身は全文提供していないからフェアユースだと主張するかもしれません。しかし原告側は、AIが回答を生成する際に記事内容をそのまま再現することがあり、ユーザーに実質的に全文を読ませているのと同じだと訴えています (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。また、記事データを無断で蓄積し商用サービスに利用している点も、「単なる検索エンジンの範囲を超えた著作権侵害行為だ」として問題視されています (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。従来からニュース記事の要約サービスに対しては世界的に議論があり(EUではニュース記事へのリンク・要約に関する新たな権利が導入された経緯もあります)、本件はAI時代版のその延長線上にあるといえます。

法的見解:
ダウ・ジョーンズ社のような大手メディアが提訴に踏み切った背景には、生成AIにコンテンツ産業が脅かされつつある危機感があると指摘されています。法律家は、「検索エンジンが行う一時的なキャッシュやスニペット表示は許容される場合が多いが、AIが行う高度な要約提供は『単なるスニペット』の範囲を逸脱する可能性がある」と評しています。今回の訴訟は、AI企業に対し報道コンテンツの利用許諾を求める圧力をかける意味もあるでしょう (ダウ・ジョーンズ、新興AIパープレキシティ提訴 著作権侵害で | ロイター)。実際、被告Perplexity社は提訴直後のブログで争う姿勢を示しましたが、「協議を無視したのは誤解」と反論するなど弁解に追われています (米新興AI、ダウ・ジョーンズと争う姿勢 著作権侵害訴訟 – ロイター)。専門家は、裁判所がフェアユースの4要素(目的・性質、著作物の性質、利用量と重要性、市場影響)をどう判断するか注目しており、営利目的かつ原文の重要部分を抽出し市場代替効果が大きいと評価されれば、フェアユースは否定される可能性が高いとみられます。日本でも、通信社記事の要約配信が著作権侵害と判断された例があり(ヤフー事件等)、「重要部分の抜粋要約」は原則侵害との見解も根強いです。Perplexity事件の行方は、今後同種のAI検索サービスが直面する法的リスクを示す指標になるでしょう。

ビジネス上の対策ポイント:

  • AI検索サービス提供者への提言:
    類似のAI検索・要約サービスを提供する企業は、ニュースサイトや出版者との連携を模索することが推奨されます。例えば記事全文ではなく見出しとリンクの提供に留める、要約提供についてライセンス契約を結ぶ、あるいは収益の一部を記事元に還元するモデルを検討するなど、権利者との共存を図ることが重要です。
  • 情報利用の内部チェック:
    社内で生成AIを使って情報収集・要約を行う場合でも、結果を外部配信する際には著作権に注意が必要です。他社の記事をAIで要約し社内レポートに使う程度なら問題は小さいですが、その要約をブログやレポートとして公開すると侵害とみなされる可能性があります。引用の範囲に留める、オリジナル記事へのリンクを明示するなど、著作権ルールを順守することが推奨されます。
  • メディア企業側の対応:
    新聞社・出版社は、自社記事の無断要約が横行しないよう、発見次第に法的措置も辞さない姿勢を示すことが抑止力になります。また、逆に自社がAI活用する際には、学習データや要約利用について第三者の権利を侵害しない範囲を確認し、社内ガイドラインを整備しておくことも重要です。

事例7: 円谷プロ(ウルトラマン) vs 画像生成AI – キャラクター画像生成への差止め請求

事例概要:
特撮ヒーロー「ウルトラマン」シリーズの著作権を持つ円谷プロダクション(日本企業)は、2022年、中国の画像生成AIサービス提供企業に対し、自社キャラクター「ウルトラマン」の画像を無断生成させたとして訴訟を起こしたことが報じられています 。このケースは中国・広州インターネット裁判所で争われ、画像生成AIが著名キャラクターに酷似した画像を出力したことが著作権侵害に当たると認定されたとされています 。裁判所は、AIサービス提供者に対しキーワードフィルタリング等の技術的措置を講じて類似画像の生成を防止するよう命じる判決を下し、さらに損害賠償も命じられたと報じられています 。生成AIによる二次創作的コンテンツでも権利侵害となり得ることを示す象徴的事例となりました。

著作権上の問題点:
この事例では、本来著作権者が許可していないキャラクター(ウルトラマン)の画像をAIが生成し得ること、それ自体が著作物の複製・翻案とみなされるかどうかが問われました。裁判所は、生成された画像が「ウルトラマンの独創的表現を部分的または完全に複製したもの」と判断し、著作権侵害を認定しています。つまり、AIが出力した結果であっても、元のキャラクターの特徴が明確に再現されていれば侵害だという論理です。著名キャラクターはデザインや造形そのものが著作物として保護されていますから、AI生成物であってもそっくりならば無断二次創作と同等に扱われます。この問題はイラスト・漫画業界でも懸念されており、例えば人気漫画のキャラ風の画像を生成AIで作り出しネット投稿する行為も、日本でも理論上は侵害となり得ます。さらに本件では、サービス提供者側の責任が問われた点も重要です。ユーザーが勝手に入力した結果とはいえ、提供者がフィルタリング等の措置を怠れば責任を負い得るという判断が示されたかたちとなり、これは生成AIサービス運営企業にとって、コンテンツ監視義務の重さを示唆しています (生成AIに関連する日本の事件と著作権問題の事例 | ainow)。

法的見解:
中国広州の裁判所の判決は、日本や他国にも影響を与えたと考えられています。法律家の見解では、「明確に特定キャラクターを指示して生成させた場合、その出力物は原作の実質的複製となる可能性が高い」という点で各国共通認識があるようです。例えば日本でも、ドラえもんやポケモンなど具体的キャラ名をプロンプトに入れてAI画像を生成し公開すれば、著作権侵害のみならず商標権や不正競争防止法上の問題にもなりえます。実際、日本の文化庁も「生成AIによる著作物の無断利用は場合によっては著作権侵害となる」との考え方をガイドラインに盛り込む予定です。法的には、著作物性の高いキャラクターデザインがそのまま映し出されれば侵害であり、本件判決はそれを追認した形と言えます。一方で、生成AIがどこまで似せたらアウトなのか、その線引きは難しい問題です。髪型や衣装だけ似ている程度ならセーフかもしれませんが、広く見て「ウルトラマンだと一目で分かる」レベルならアウトでしょう。本件のように具体的名称での生成は明確にNGと考えるのが安全です。中国裁判所がAI提供者に技術的対応を命じた点について、法務専門家は「サービス提供者にとって予見可能な侵害は未然防止せよとのメッセージ」と解説しています。これは日本でもプラットフォーム責任論として議論されている方向性です。

ビジネス上の対策ポイント:

  • 生成AIサービス運営者の注意:
    自社の生成AIが明らかに有名キャラクターや実在人物の画像を出力できてしまう場合、フィルタリングシステムの導入が推奨されます。具体的にはプロンプトに有名作品名・キャラ名が入ったら警告する、特定のビジュアル特徴を検出したら画像生成をブロックする、といった措置が考えられます。実装コストはかかりますが、法的リスク回避のためには必要な投資と言えるでしょう。
  • 利用者側の心得:
    企業やクリエイターが生成AIで遊ぶ際も、有名作品やキャラクターの名前・画像を入力しないことが推奨されます。たとえば「〇〇(有名キャラ)風のロゴ」などと生成し、それをSNSや商品に使うと、著作権者から削除要請や賠償請求を受けるリスクがあります。アイデア段階で参考に留め、公開物にはオリジナル要素を加える工夫を検討するとよいでしょう。
  • 版権ビジネスとの棲み分け:
    もし自社で特定キャラクター風のコンテンツをAI生成し活用したい場合、最初から版権元と正式にライセンス契約を結ぶのが堅実です。生成AIであっても許諾範囲内なら問題ありませんし、逆に版権元にとっても新たな展開機会になります。無断で済ませようとせず、権利者との協業による創作を検討することが望ましいでしょう。

事例8: 中国・AI画像著作権判例(北京) – AI生成画像に初めて著作権を認めた判決

事例概要:
2023年11月、中国の北京インターネット裁判所は、AIが生成した画像に著作物性(創作性)が認められるかが争点となった訴訟で、画期的な判決を下しました 。原告の個人ユーザーは、画像生成AIツール「Stable Diffusion」を使って「春風が優しさを運んでくる」というタイトルのオリジナル画像(以下「原告画像」)を生成しSNSに投稿しました 。その後、被告が運営する別のプラットフォーム上で、この原告画像が作者名(署名)を削除された形で無断使用されているのを発見し、著作権侵害で提訴したものです。北京インターネット裁判所は、AI生成物であっても人間による創作的な関与があれば著作権保護の対象となるとの判断を示し、中国初のAI生成画像に関する著作権侵害成立の事例となりました 。具体的には、原告であるユーザーがAIに対して行ったモデル選択・プロンプト入力・パラメータ設定等の行為が「創作的寄与」に当たると認定され、原告画像は著作物として保護されうると判断されたのです 。裁判所は被告による無断使用が、原告の氏名表示権および情報ネットワーク伝達権(日本法の公衆送信権に相当)を侵害するとして、被告に対し謝罪と賠償を命じました 。

著作権上の問題点:
このケースが提起した最大の論点は、「AIが生成した作品に著作権を認めることができるか」です。通常、著作物として保護されるには人間の創作性が必要とされます。しかしAIが自動生成したものに人間の関与がどの程度あれば「人の著作物」と言えるのか、各国で議論が進んでいます。本件では、中国の裁判所がユーザーの入力・設定行為自体に創作性を認めた点が特徴的です。原告は「どのAIモデルを使い、どんな指示語(プロンプト)を入れ、さらにパラメータ(解像度やサンプリング方法など)をどう設定するか」という一連の選択を行っており、これが結果画像の創作に実質的に寄与したと主張していました 。裁判所も、このユーザーの寄与がなければ当該画像は生まれなかったとして、人間の創作的関与を肯定しました。もう一つの問題点は、他人がAI生成画像を無断利用した場合の扱いです。AI生成物に著作権がないとすれば無断利用され放題ですが、著作権が認められれば従来どおり侵害として救済されます。本件判決は後者の立場をとり、AI生成物の無断転載に対してもしっかり救済を与えた点で、クリエイターに安心感を与える内容となっています。

法的見解:
この北京裁判所の判決は各国で話題になり、「AI時代における著作物性の判断基準を示した」と評価されています。日本でも、「人の創作意図と寄与があればAI生成物にも著作権を認め得る」という考え方自体は共有されており、ただしどこまでの関与が必要か具体的基準は未確立です。米国では対照的に、完全にAIが作った作品(人間の関与ゼロ)には著作権登録を認めない判断が示されています(後述のThaler事件)。本件のように、人間がAIを「道具として使用した」と評価できる場合には、欧米含め著作権を認める余地があると言えるでしょう。判決文によれば、中国裁判所は「人による具体的な指示や設定が結果に反映されている場合、その結果物は人の創作とみなす」との立場を明確にしています。この考え方は、日本の知的財産戦略本部の報告書でも言及されており、「具体的な事例の収集を進めるしかない」という現状認識が示されています。いずれにせよ、本件はAI創作物に関する最初期の判例として今後も参照され、中国国内では類似の訴訟判断の指針になるでしょう。

ビジネス上の対策ポイント:

  • AI生成物の権利主張:
    企業やクリエイターがAI生成コンテンツ(画像・文章・楽曲等)を制作した場合、人間の関与部分を記録・説明できるようにしておくことが望まれます。例えば、どんなプロンプトを入力し、どういった編集を施したかなどをメモしておけば、万一盗用された際に自分の創作であると主張しやすくなります。本件原告も、自らの入力手順を詳細に示すことで創作性を立証しました。
  • 利用ポリシー整備:
    他社や第三者が生成したAI画像を利用する際は、その画像が誰の著作物なのか不明瞭である場合に注意が必要です。権利者不明の画像を勝手に商用利用すると本件の被告のように訴えられるリスクがあります。AIプラットフォーム提供企業は、利用規約で「ユーザーが生成したコンテンツの権利はユーザーに帰属する」等の取り決めを明示しておくとともに、ユーザーにも出力物の取り扱い方(パブリックドメインではない可能性がある旨)を周知することが推奨されます。
  • 新たな著作権管理:
    将来的には、AI生成物に関する著作権を管理・取引する新しい仕組みが必要になるかもしれません。企業はそうした動き(例えばブロックチェーンを使ったAI作品の認証システム等)にアンテナを張り、適切に自社のAI生成コンテンツを保護・活用する戦略を立てることが重要です。

事例9: 米国・Thaler事件 – AIのみが創作した作品の著作権は認められない判決

事例概要:
「AIが生成した作品の著作権者としてAIを登録できるか」という前代未聞の申請を巡り、米国で裁判となったのがスティーブン・テイラー(Stephen Thaler)氏の事件です。テイラー氏は、自身の開発したAIシステム(Creativity Machine)によって創作された画像作品「A Recent Entrance to Paradise」について、著作者をAI(Creativity Machine)とする著作権登録を申請しました。米国著作権局は「人間が創作していない作品は登録できない」としてこれを拒絶し、テイラー氏はその決定を不服として2022年に提訴しました。2023年8月、ワシントンD.C.連邦地方裁判所のバリール・ハウエル判事は、「人間が関与することなくAIが生成した作品は著作権保護の対象とならない」との判断を示し、著作権局の判断を支持する判決を下しました。この判決は、AIのみが創作したコンテンツに人間の著作権は発生しないことを明確に示したものとして世界的に報道されました。

著作権上の問題点:
ここでの論点はシンプルで、「著作物の創作者は人間でなければならない」という原則の再確認です。テイラー氏のケースでは、人間は全く創作行為をしておらず、AIが自律的に生み出した画像でした。著作権法の歴史的解釈では、写真のシャッターボタンを押すなど何らかの人間の関与があれば著作物とされてきましたが、本件はそれすら無い純粋AI作成物でした。そのため裁判所は、「米国著作権法は人間が創作した著作物のみを保護する」という一貫した立場を確認し、AIが単独で作り出した作品は保護されないと結論づけました。判決文では、「たとえ新しいツールや媒体を用いても、人間の創造性こそが著作権保護の根幹要件である」という趣旨が述べられています。つまり、AIという革新的な技術が登場しても、法の基本原理(人間中心主義)は揺らがないというメッセージです。これは、以前話題になった「自撮りするサル」事件(ナルトのサルが撮影した写真に著作権は認められないとの判例)とも通じる考え方です。

法的見解:
米国のこの判決は今後の指針として極めて重要です。米国著作権局は2023年3月にもガイダンスを出し、「著作権登録申請には人間の創作部分を具体的に示すように」と求めています。今回の裁判所判断はそれを追認した形で、完全自動生成物は登録不可というスタンスが司法でも確認されました。判決では、テイラー氏が主張した「AIが作者なら、その所有者である自分に権利が帰属する」との論も退けられました。一方で判決は注釈として、「別の事実関係であれば異なる結果もあり得る」とも述べており、例えば人間が多少なりとも介入していれば結果は変わりうる可能性があるとも解釈されています (D.C. Federal District Court Holds Work Created Entirely by an AI System Cannot Be Copyrighted | Davis Wright Tremaine)。実際、米国では一部人間が関与したAI生成作品(漫画作品で構図やテキストは人、絵はAIなど)に限定的な著作権登録が認められた例もあります。日本やEUも基本的には「人間以外には権利主体性を認めない」方向で一致しており、仮にAIが完全自律的に作曲やデザインをしても、それ自体は著作物ではなく誰でも使える状態になるというのが現状のルールです。もっとも、それではAI生成物を用いたビジネスが不安定になるため、今後創作者がAIを使って制作したコンテンツの扱いについて各国でルール整備が進む可能性があります。

ビジネス上の対策ポイント:

  • AI生成物への人的関与:
    企業がAIを使ってコンテンツを制作する際、著作権で保護したいのであれば必ず人間の創作工程を含めることが推奨されます。例えば画像生成AIで素材画像を出力する場合、そのままでは著作権取得が難しいので、人間がそれを加工・編集したり、他の要素と組み合わせるといった追加創作を行うことで、人間の著作物に昇華させる工夫が求められます。
  • 契約での権利確保:
    完全AI生成物を使う場合でも、契約や利用規約で権利帰属を明示しておくことがビジネス上有効です。著作権法上保護が無くても、契約で「第三者による無断利用を禁止する」等の取り決めをしておけば、少なくとも契約違反として対応できる可能性はあります(ただし対抗力は著作権ほど強くありません)。
  • 商標や不正競争防止法の活用:
    著作権が認められないAI生成物でも、ブランドロゴやキャッチコピー的なものであれば商標登録を検討したり、商品等表示として不正競争防止法で保護することも視野に入れられます。法の隙間を補完する形で他の知的財産権を活用することが、総合的なリスクマネジメントには有効です。

事例10: GitHub Copilot集団訴訟 – プログラムコードの無断学習とOSSライセンス問題

事例概要:
プログラミング補助AIであるGitHub Copilotを巡り、2022年11月に米カリフォルニアでオープンソース開発者たちによる集団訴訟が提起されました。CopilotはGitHub上の膨大な公開ソースコードを学習し、ユーザーの入力に応じたコード補完を行うサービスですが、原告らは自分たちの公開コードが無断で学習に使われ、さらにその断片が利用者への提案として無表示・無断で再利用されていると主張しています。特に、GPLなどコピーレフト系ライセンスのコードを訴訟なしに提案表示するのは、ライセンス義務(著作権表示やソース開示)を回避する行為だとして問題視されました。被告はGitHub及び親会社のMicrosoft、提携先のOpenAIです。この訴訟は、ソフトウェア開発分野における生成AIの著作権・契約問題として注目され、未だ係争中です。2023年5月、連邦地裁は原告の一部請求を棄却しましたが、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)違反やオープンソースライセンス違反など複数の主張については引き続き審理を認めています (Insights from the Pending Copilot Class Action Lawsuit | Articles | Finnegan | Leading IP+ Law Firm)。

著作権上の問題点:
Copilot訴訟の論点は三層あります。(1) 著作権侵害の有無:AIがトレーニングでコードを複製し、結果として同一ないし類似のコードを出力する行為は、原作者の複製権・翻案権を侵害するのか (2) OSSライセンス(契約)違反:オープンソースソフトウェアはライセンス条件付きで利用許諾されていますが、AIの出力にはその条件(著作者表示や派生物の公開義務等)が継承されないことが契約違反に該当するのか (3) 人格権・情報開示義務:原告側は、AIがコード提案時に元の著作者名を削除していることが米国DMCAの著作権管理情報の除去にあたるとも主張しました。このように著作権だけでなく契約法や特殊な法律論点が交錯しています。従来、プログラムのAPIや機能仕様の学習は著作権的に問題ないとされてきましたが、コードそのものの断片が出力される場合は実質コピーと変わらないとして、問題視される可能性があります。Copilotからは稀に数十行の既存コードがそのまま出てくることも報告されており、これは明確に複製行為だと指摘されています。訴訟では「具体的に誰のどのコードが再現されたか」特定が不十分だとの指摘もあり、立証のハードルも問題となりました。

法的見解:
2023年5月の地裁判断では、原告の主要な著作権侵害クレームは棄却されました(具体的事例の特定不足などが理由)ものの、DMCA 1202条違反(著作権管理情報の無断削除)や不当利得、不正競争など一部の主張はなお争点として残っています。法律家からは、「Copilot問題は現行法では捉えきれず、OSSコミュニティ側のモラルの問題に留まる可能性もある」との見方や、「判決で白黒付かずとも、大手企業が自主的にOSS開発者へ配慮する方策(例えばMicrosoftが表明したCopilot利用者への賠償責任補償ポリシー )が進むだろう」との見解もあります。実際、MicrosoftはCopilot利用者が万一著作権侵害で訴えられた場合の補償を約束する声明を出すなど、訴訟リスクの緩和に動いています。この集団訴訟自体は一部却下を受けて原告側が主張を補充するなど、長期化が見込まれます。専門家は、「AIによるコード生成は基本は許容されるが、具体的なコピーアウトプットは侵害」という線で落ち着くのではないかと予想しています。つまり、Copilotの設計自体は問題ではなく、稀に起こるライセンス条項無視のコード出力が問題であり、そこを技術的・契約的にどう担保するかが課題となるという指摘です。

ビジネス上の対策ポイント:

  • OSSライセンス遵守:
    AIを用いてコード生成を行う場合でも、オープンソースライセンスの遵守を検討することが推奨されます。Copilot等を利用して得たコード断片が、もしGPL等由来と思われる場合は、その部分を使用しない、または該当ライセンスに従って公開するなどの対応が考えられます。企業では、AI生成コードにも通常のコードと同様のコードレビュー工程を設け、ライセンスチェックツールを活用することが有効です。
  • ポリシーの明確化:
    AIコード補完サービス提供者は、利用規約で「出力されるコードの著作権帰属やライセンスについて保証しない」旨を明示している場合が多いですが、それだけでなく、どのようなデータを学習に使っているか透明性を高めることも信頼醸成につながります。場合によっては、企業向けに特定のライセンスのコードは出力しないモードを提供するなど、細かな配慮も差別化要因となるでしょう。
  • 開発者コミュニティとの協調:
    Copilot訴訟はOSSコミュニティの不信感も背景にあります。生成AIを活用する企業は、コミュニティに対し自社はオープンソースへの敬意を持っていることを示す取り組み(例えば自社のプロジェクトをオープンソース公開する、寄付を行う等)を行うことで、摩擦を減らす効果があります。透明性・倫理性を打ち出したAI活用が、今後の信頼確保に欠かせないでしょう。

総括

以上、生成AIと著作権に関する国内外の最新事例10件を見てきました。それぞれのケースで論点は異なりますが、共通して浮かび上がるのは「著作権法の基本原則をいかにAI時代に適用・調整するか」という課題です。NYタイムズや作家訴訟に見るように、AIの学習段階での大量無断利用はデータ提供者との対立を生み、Gettyや音楽レーベルのケースでは、コンテンツビジネスとAI企業の利害衝突が顕在化しました。中国のウルトラマン訴訟や米国のCopilot訴訟では、生成物の利用段階で既存権利との摩擦が問題となり、北京AI画像判例やThaler事件は、生成物そのものの権利付与に一石を投じました。

現状、世界的に見ると司法判断はまだ統一的とは言えず、国や案件によって微妙に結論が分かれています。しかし大勢としては、(1) 学習段階では日本のように法律で許容する動き(著作権法第30条の4)と、米国のようにフェアユース論で個別判断する動きがあります。(2) 生成物の利用段階では、他人の作品そのものや独創的表現部分を再現すれば侵害という従来原則がそのまま適用され、AIだから特別許されるということはありません。(3) 生成物の著作物性については、各国とも基本は人間の創作が必要との立場ですが、人がどこまで関与すればよいか明確な基準作りが急務です。日本政府もこの点を注視しており、「具体的事例の収集を進める」としています 。

法改正の動向としては、米国では連邦議会が生成AIの訓練データ開示義務や著作物出力時の帰属明示義務を課す法案を検討中との報道もあります。EUも2024年から施行予定のAI規制法の中で、生成AIに対し訓練データの開示など透明性義務を定める見込みです。日本では文化庁が生成AIの著作権ガイドライン策定を進めており、企業やクリエイターが現行法の下で何に注意すべきかを整理する方針です。すでに日本の著作権法はAI開発・学習目的の著作物利用を一定範囲で許容していますが、逆に生成物の無断利用やデータ提供拒否(オプトアウト権)など権利者側の保護も議論されています。今後の立法・ガイドライン整備により、「学習段階での適法ライン」「生成物利用の許諾範囲」「AI生成物の権利帰属」について、より明確なルールが示されていくでしょう。

ビジネスパーソンやクリエイターにとって、現時点で重要なのは以下のポイントです:

  • 契約と許諾の意識:
    AIを導入する企業は、利用するデータや提供する出力について、必要な許諾を得ているか常に確認する姿勢が望ましいでしょう。契約書や利用規約を整備し、権利処理が不明瞭なままサービス提供・コンテンツ公開しないことが肝要です。
  • 技術的対応:
    生成AIサービス提供者はフィルタリングやログ管理など技術措置で侵害を予防し、万一問題が起きた際の検証ができるようにしておくことが推奨されます。利用する側も出力結果をチェックし、明らかに他人の作品由来と思われるものは使わない慎重さが求められます。
  • 動向のフォロー:
    今回紹介した訴訟の多くはまだ審理中であり、結果次第で実務対応も変わり得ます。法務担当者は最新の判例やガイドライン、業界団体の発信をウォッチし、自社ポリシーに反映させるとよいでしょう。例えば、著名な判決や和解が出れば、それに合わせて社内のAI利用規程をアップデートする、といった機敏さがリスク軽減につながります。
  • 対話と協調:
    最後に、AI開発者とクリエイター/権利者の対話も重要です。お互いの利益と懸念を理解し、Win-Winとなるようなルール作り(例えば適切な報酬スキームの構築)を模索することが、真の解決策となるでしょう。企業は一方的にならず、業界標準の策定やライセンス交渉の場に積極的に参加する姿勢が求められます。

生成AIはビジネスに大きな恩恵をもたらす技術である一方、法的リスクにも細心の注意を払う必要があります。著作権法をはじめとするルールを正しく理解し、適切な対応策を講じることで、創造性と法的安定性を両立させたAI活用を実現していきましょう。

生成AIに関するご相談は以下よりお気軽にお寄せください。